不動産投資での減価償却について考える時は以下の2点のメリットとデメリットをセットで考えておく必要があります。
- 毎年キャッシュアウトの無い経費による節税効果
- 減価償却によって減価した不動産の売却時の利益増加とその課税
お金の出ていかない経費である「減価償却」は課税される利益を減らしてくれるメリットがあるものの、その分不動産の簿価上の原価は減少していますので売却時には大きな利益が出やすく、それに伴う課税も大きくなるデメリットもあります。
まず減価償却の良い面。毎年の節税効果!
不動産投資を行って物件を取得すると減価償却をするルールがあります。法定された基準に基づいて建物の価値を減じてくものです。
土地は使用する事でも劣化したりしないので減価償却の対象は「建物」だけになります。
キャッシュアウト無く経費計上出来、課税利益を減らせる!
この減価償却は建物劣化分を金銭に換算して経費計上する性質なので「キャッシュアウトの無い経費」つまりお金を使わずに利益を減らせるというメリットがあります。
減価償却以外の経費は、例えば交際費や備品費用、交通費などは必ず出捐を伴うので手元の資金が減ってしまいます。あたりまえですが使った必要な経費分が「経費」になるだけです。
減価償却の計算方法は?
不動産投資における償却資産は建物と設備です。計算方法は取得価額に耐用年数に応じた下の表の償却率と年数をかけて算出します。
種類 | 耐用年数 | 償却率(年間) |
木造 | 22年 | 0.046 |
鉄骨造① | 27年 | 0.038 |
鉄骨造② | 34年 | 0.03 |
RC造 | 47年 | 0.022 |
建物付属設備 | 15年 | 0.067 |
計算例・①建物のみで計算②設備と建物を分けて計算した場合
不動産の内建物価格が1億円の場合で計算します。
RC造内訳:本体…8,000万円(耐用年数47年 償却率0.022)
設備…2,000万円(耐用年数15年 償却率0.067)
①建物価格をすべてを不動産として減価償却すると
1億円×0.022=減価償却費220万円
②建物価格を本体と設備に分けて減価償却すると
本体部分:8,000万円×0.022=176万円
設備部分:2,000万円×0.067=134万円
合計:減価償却費310万円
最初の15年つまり設備の減価償却がある期間は、設備と建物を分けて減価償却した方が90万円多く節税効果がありますが、15年を超えてからは毎年の減価償却が310万円から176万円(建物のみ)になるので、償却のスピードが変わるだけでどちらが得という事はありません。
中古物件等の減価償却可能期間は?(償却期間)
新築であれば法定耐用年数分の減価償却期間で償却出来ますが中古物件等では償却可能な期間が変わるので紹介します。
①中古物件で法定耐用年数を超えていない建物
償却年数=(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2
②法定耐用年数を超えた建物
償却年数=法定耐用年数×0.2 ※2年未満となる場合は2年
RC造の築30年の物件の場合は以下になります。
償却期間:(47年-30年)+47年×0.2=26年
節税の効果は?計算してみましょう。
先ほどの例で計算します。
建物価格:1億円 RC造 利回り5%で収入が500万円
内訳:本体…8,000万円(耐用年数47年 償却率0.022)
設備…2,000万円(耐用年数15年 償却率0.067)
建物価格をすべてを不動産として減価償却すると
1億円×0.022=減価償却費220万円
サラリーマンの所得税や住民税などの実効税率が概ね15%としますと、500万円の利益に対して減価償却をおこなうことで課税収入が220万円減らせます。
10年間で計算すると節税の効果は220万円×15%×10年=330万円税金を減らすことが出来ます。
後にお話ししますがこの時点で建物の簿価(利益算定時の所得価格)は10年の減価償却を経て1億円-2200万円で7800万円になっています。
悪い面。売却時に減価した分利益が大きくなり課税も大きくなる!
減価償却で毎年の節税効果を得ながら、その分建物の簿価は下がっています。先ほど記載した例では1億円で購入した建物は2200万円減価して7800万円になっています。
不動産を売却した時に収める譲渡所得税は売却による利益にかかります。
例に出した不動産が1億円で売却できたとします。
よって譲渡所得税は
2200万円×20.315%(長期譲渡所得税率)=446万円
10年で減価償却によって節約した税金が330万円でしたから446万円でそれを上回る税金を支払わなければなりません。もしまじめに減価償却で節税したお金を貯金していても足りません。
売却をすると減価償却で節税した分も更にプラスで税金として持ってかれてしまいます。
売却する時のローンの残債額にもよりますが、売却代金からローンを弁済した残金でこの高額な税金が支払えればマシですが、足りなそうであれば節税分も売却時に備えて貯金をし更に準備をしておかないと税金が支払えないリスクがあります。
減価償却のメリットを受けきるには売却せずに保有する!
冒頭で記載した通り減価償却はもろ刃の性質を持っています。
- 毎年キャッシュアウトの無い経費による節税効果
- 減価償却によって減価した不動産の売却時の利益増加とその課税
よって売却するとそれほどメリットは受けられません。減価償却のメリットを取り切るには物件を保有し続け賃料収入をエンジョイする事です。
売却する事になったらローンの残債との見合いを考え、減価償却で減った簿価を正確に計算し、追加で納税資金を用意しなくてもいい価格で売却する様に注意してください。