賃貸物件を保有していると、さまざまなトラブルや解決しなければならない事が発生します。こんな時は自分の作業量が増えないように、賢く対応していくことで運営のストレスがなくなっていきます。
その為には、まず原則となる法律から導かれる結果を十分に理解してから、交渉力を発揮して解決していきましょう。
原則となる法律的な結果を理解せずに対応すると、法律を調べて対向してきた相手に思わぬ反撃を食らって、窮地に立つことがあります。
私が経験した「賃借人死亡」事例(残置物あり)
私が所有しているマンションにお住まい頂いていた65才の男性の方がいました。この方は一人暮らしでしたが、私が賃料の振込先の変更をお願いする際に電話をした時も快活な口調で了解を頂き大変元気な印象を受けておりました。この電話が賃借人の方と私が話した最後がとなりました。丁度、お亡くなりなる二週間前位でした。
「賃借人死亡」発見当日の状況
ある日警察から連絡がありました。
私:「どうされましたか?すぐには行けませんが妻が対応できると思います。」
警察官:「オーナーさんのお部屋からものすごい異臭がしています。おそらくお住まいの方がお亡くなりなってる可能性が高いです。」
この時は、二週間前に話した賃借人さんがお亡くなりなられた事になんとも言えない悲しい気持ちになり、「この後の対応は?」、「残置物は?」みたいな気持ちにならないものです。
妻が鍵を持参して現地へ
実際は私の部屋は3階ですが、1階のエントランスまでにおいがして、妻はとても3階まで付き合える状況ではなかったようです。やはりお亡くなりなられておられたので、運び出されてその場は終わりました。我々もご冥福をお祈りしました。
私の不動産経験の中で初めての「賃借人死亡」が私の所有物件でおきるとは、、、
賃借人の家族構成をまず知ることが重要。
現実に戻ると、私は不動産投資を行っているから、お部屋から収益を得なければなりません。その為には賃借人死亡という問題を解決しなければ、収益を得ることさえままならないことに気づきました。
まず、自分の所有するお部屋を貸せる状態にしなければなりません。
補償や契約関連の処理をしなければなりませんが、それを誰と話すのか?相続権のある人は誰なのか?がまず分かりません。
本人は死亡してもういないので、諸々の問題について話すべき相手をまず探してください。今回の場合は、賃貸借契約書上の連帯保証人であるお姉さまに連絡を取りました。賃借人は生涯独身で子供がおられず、ご両親もなくなっており唯一の親族はこのお姉さまだけでした。
このお姉さまが誠実で金銭的にも余裕のある方でしたので私の場合は助かりましたが、皆さん、自分自身が行ったことではない事の補償などをしたくないのですから、多少なりとも交渉になるはずです。
「賃借人死亡」で解決しなければならない4つの事!
お部屋で賃借人死亡が起きた時、主に以下の点を解決する必要があります。
- 賃借人の所有物の処分 →勝手に捨てることは出来ない
- 賃貸借契約の処理 →解約していないのに、新たに賃借人と契約して貸すことは出来ない
- におい等処理など直接的にかかる費用 →原状回復に性質は似ていますが、賃借人は善意無過失(亡くなっただけ)
- 人が亡くなった事による賃料への影響など間接的損失
1「賃借人の所有物の処分」についての考え方は、賃借人の所有物は相続されているという事
賃借人がお亡くなりなられた後に残った動産(TV、本、机等)は相続財産として相続人に相続されていると考えます。私の場合はお姉さまが相続をして、お姉さまの所有物になっているという事です。従って現在の所有者つまり相続人であるお姉さまに処分をお願いする事が、第一の選択肢になります。
賃借人死亡の残置物は損失を最小限にと考えましょう。
経済的損失、期間的損失のダブルの損失は回避するべき
相続人が無抵抗に残置物を処分をしてくれれば、期間損失及び経済的損失もありません。しかしながら、相続した所有者が処分を拒んだりした場合は、残置物が長期間処分がされない状態になり、新たに賃借人を募集することができません。残置物が放置された期間の機会損失は、我々投資家にとっては非常に痛手になります。
そこで第二の選択肢ですが、「残置物の所有権を放棄してもらい、こちらで処分をする。」方法を提案します。こうすると処分費をこちらで負担しなければならないので経済的損失はありますが、期間の損失はなくなります。
納得いかない部分もありますが、損失を最小限におさえる事を最優先に選択をしていった方が最後はコチラのプラスになります。
2「賃貸借契約の処理」についての考え方も契約は別段の定めがない限り相続されていると考える
賃貸借契約に関しても相続人に相続されるのが原則です。賃借権は、その物件を賃借をして使用収益できる権利に対して対価を支払う権利ですので相続対象になります。
似ていますが使用貸借契約(ただで使わせてもらう)の場合は借主の死亡で消滅します。(相続されません)無料で貸すくらいの強い人間関係に依拠した契約で、「その人だから無料でいい」という属人性も強く、ただで借りるというメリットしかない権利を享受するだけの契約なので、民法でもわざわざ消滅規定が置かれているので注意してください。
賃貸借契約は相続されているので、相続人と賃貸借契約の解約手続きを行えば大丈夫です。賃貸借契約の解約交渉は、借りたままですと賃料を相続人が支払わなければならないので解約については相続人も抵抗しないと思います。
賃貸借契約が相続されている点を交渉材料に残置物も解決!
亡くなられた賃借人の残置物の処分の交渉として、賃貸借契約が相続されている事が利用できます。相続人が残置物の処分を行わない場合、「お部屋にモノが置いてあるのだから、賃貸借契約は解除できず、賃料を支払ってください。」と言ってみてください。相続人は賃料を支払うのはいやですから、残置物を処分してくれる可能性が高いです。
最悪でも残置物の所有権を放棄して処分はさせてもらえるはずです。
とにかく早く貸せる状態にすることが重要ですの、相続人に処分の意思や資金がないときは早く所有権を放棄してもらい、こちらで処理してしまう方が賢明かと思います。
3「におい等処理など直接的にかかる費用」については現状回復の規定をつかってお願いしよう!
原状回復に関して、自殺などは別として病気などでの死亡に起因するにおい等は賃借人に責任が全くありません。法律解釈ですと賃借人に落ち度がないので、このにおい除去を原状回復義務とすることは困難だと私は感じています。
そこで「お願い」がベストな選択肢言えます。
高圧的に「汚したんだからきれいにして」というスタンスを取らず「お願い」にする理由は、相続人が弁護士に相談したり、法律を勉強して「賃借人は無過失だから死亡によるにおいについては除去の義務はない!」と反撃にでる可能性があるからです。
初めに原状回復義務を大上段で振りかざして直させようとすると、この反撃に瞬殺されてしまいます。
「お願い」であれば弁護士に相談して原状回復をしなくていいことが、後でわかっても「だからお願いだってんです」といえるからです。
このお願いスタンスですと紛争的な状態ではなく、交渉になりますから、全額とはいかなくても半額位負担してもらう結果を導くことができます。
4「人が亡くなった事による賃料への影響など間接的損失」については完全なお願い、ここまでの補償は求められないと思ってください。
賃借人死亡で賃料が下がるかもしれないリスクについては、賃貸事業を行うものとして当然に許容すべきリスクといえます。お願いして、少し保証してくれればいいな位の気持ちで、しつこくも請求しないようしましょう。
がんばって賃料が下がらないような努力をするように気持ちを切り替えましょう。
法律的に考えた結果を理解して、コミュニケーション能力をフル活用して解決しよう
賃借人死亡時は、補償など問題もありますがお部屋をとにかく早く貸せる状態にする事が重要です。この事を考えることで交渉の妥協点も見つけやすくなります。そして、法律的に正しい知識をもっていれば、最悪の結果も理解したうえで交渉に臨めます。
最後はご自身のコミュニケーション能力をフル活用して、損をしないような結果に導いて問題解決して下さい。