裁判例から読みとく!不動産投資に係る経費はどこまで認められるのか?

不動産投資で経費はどこまで認められるのでしょうか?

判断基準として揺るぎない基準は「不動産所得を生ずべき業務の遂行上必要である」です。

しかしながらこの基準の解釈は個人個人微妙なラインで異なると思います。例えば、「物件探しにも利用している自宅のインターネット代や電話代」は判断に迷うと思います。プライベートでも利用しているし、不動産所得を得るためにも利用しているからです。

不動産投資の経費がどこまで認められるのか争いなく認められる簡単な項目を最初に確認し、その後、国税不服審判所で争われた判断の難しい事例を読み解きながら確認していきたいと思います。

判断の分かれない経費をまず確認していきましょう。

「不動産所得を生ずべき業務の遂行上必要である」の基準に照らして解釈の分かれない経費を列挙します。

  • 賃貸不動産の管理費
  • 賃貸不動産の修繕積立金
  • 賃貸不動産の修理費
  • 保険料(年度ごと分割計上)
  • 賃貸不動産の固定資産税
  • 賃貸不動産の都市計画税
  • 賃貸不動産のローン利息

これら項目は物件検討する時の物件の収支にも支出項目として記載すると思います。正に純然たる賃貸不動産の支出です。ここでは判断基準が分かれる事はありません。

収支は下記の私の作ったシートを参考にしていただけると幸甚です。

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国税不服審判所の例をみて、経費計上の判断基準を確認しましょう。

国税不服審判所にて「平成23年3月25日裁決」の事例

自動車に係る経費について経費計上できるか?

主張:「不動産物件の取得を目的とする現地調査及び遠隔地に散在する貸付不動産の現況確認に車両を使用しており、その車両に係る自動車税、損害保険料及び減価償却費等は、不動産賃貸業の遂行上必要な経費である。」と主張したものです。

裁決:「不動産物件の取得を目的とする調査の具体的内容は明らかでなく、本件各年分において、請求人が不動産物件を新たに購入した事実もない。また、●物件及び▲物件は、不動産業者に管理を委託しており、請求人がf市に出向いて管理を行う必要性はなく、実際に管理を行っていたとも認められない。車両の私的利用は、年間100キロメートル程度であり、大部分を不動産賃貸業の用に供していた旨主張するが、その根拠を何ら具体的かつ客観的に示していないから、車両に係る経費のうち、不動産賃貸業の遂行上必要である部分が明確に区分されていたとはいえない。
 したがって、車両に係る経費は、その全額について、必要経費に算入することができない。

車両について賃貸業の為に利用した客観的な事実を示せば経費計上できる

自動車については全額経費計上出来ないとの採決となっていますが、主な理由は以下です。

  • 車両を使った調査の具体的内容が不明
  • 調査後新たに不動産を購入していない
  • 管理を委託しており自ら物件に行く必要が無い
  • 賃貸業の為にどの程度利用したか客観的に示していない

裏を返せば、不動産物件調査の具体的な内容とどの程度不動産賃貸業に利用したかを客観的に示せば経費計上できるという事です。

住居を不動産賃貸業の事務所として利用していた場合。住居の賃料を経費計上できるか?

主張:「住居の全体面積 80㎡程度のうち、50%に相当する40㎡程度を、不動産賃貸業の用に供していたから、住居の家賃は全額不動産所得の必要経費に算入すべきである。
更に、上記のとおり、本件住居のうち50%を不動産賃貸業の用に供しているから、その建物に係る水光熱費の50%は、必要経費に算入すべきである。」

裁決:「不動産賃貸業のうちに、40㎡もの空間を常時利用して行うべき業務があったとは認められず、本件住居を不動産賃貸業の用に供する必要性は極めて限定的であったと推認される。
 また、本件住居の電気、ガス及び水道は家族4人の生活のために消費される部分が多くなるのは明白であって、請求人が来客や記帳のためにこれらを使用することがあったとしても、その使用量はごくわずかにとどまるものといわざるを得ず、水道光熱費を請求人の主張する面積比率(50%)であん分することに合理的な理由はない。
 以上によれば、本件住居の賃借料及び水光熱費は、不動産賃貸業の遂行上必要である部分が明確に区分されていたとはいえないから、いずれもその全額について、必要経費に算入することができない

住宅の家賃や水道光熱費は不動産賃貸業に利用している範囲で認められる。

家賃について否認されていますが、その理由は主に以下になります。

  • 40㎡も常時不動産賃貸業に使っていない
  • 住宅の賃貸業への利用は限定的
  • 水道光熱費は主に家族で利用した分である

これも否認理由の裏を返せば、不動産賃貸業に必要な広さ(机といす、FAX置き場のスペース程度)で賃貸業に利用してれば家賃も経費計上できるという事です。

インターネットや電話代は経費計上できるか?

主張:インターネット利用料及び電話代について、不動産物件の取得を目的とする調査並びに貸付不動産の賃借人及び修繕業者等との連絡等に、電話及びインターネットを使用しているから、インターネット利用料及び電話代は、必要経費に算入すべきである。

裁決:「インターネット利用料及び電話代にについての主張する不動産物件の取得を目的とする調査の具体的内容が明らかでない。また、●物件及び▲物件は、不動産業者に管理を委託しているから、仮に、賃借人や修繕業者等との連絡に電話を使用することがあったとしても、電話代のほとんどをこれらの連絡に使用しているとは認められない。
 そうすると、請求人のインターネット利用料及び電話代は、不動産賃貸業の遂行上必要である部分を明確に区分することができない以上、その全額について、必要経費に算入することができない。

インターネットや電話代の経費計上は、賃貸業に利用した具体的な内容が重要。

インターネット代も電話代も全額計上が否認されていますが、主な理由は以下です。

  • インターネット等を利用した調査内容が不明
  • 賃貸業の為の連絡は限定的

これも裏を返せばインターネットや電話による不動産賃貸に係る調査内容を具体的に示せば経費計上できるという事です。

接待費、タクシー代、スーツ代、カード会費などの経費計上は?

主張:「不動産賃貸業において、収益を向上させるためには、賃貸の見込める不動産物件をいかに安価に購入できるかが極めて重要なポイントとなり、不動産賃貸業を営む以上、かかる物件調査を継続することが大事であるから、業務の一環としての調査費用(接待交際費、タクシー代等)を必要経費に算入すべきである。
 また、祈祷料、宅配便代、電子機器代、事務用品代、カード年会費、スーツ代、作業着代、廃品処理代、備品代、自転車代、コンタクトレンズ代及びコンタクトレンズ購入に際しての診察代も、支出先が明らかであるものは必要経費に算入すべきである。」

裁決:「不動産物件の取得を目的とする調査の具体的内容が明らかでない上、物件調査費その他の費用は、不動産所得の総収入金額に相当するような多額の支出であるにもかかわらず、その具体的内容が何ら明らかにされていないことからすれば、不動産賃貸業に直接関連し、かつ、通常必要な支出であると認めることはできない。」

判断の分かれる項目は金額の大きさも問題。専門知識が必要なので事前に税理士に相談した方がいい。

裁決を見ると接待交際費などの経費が不動産収入と同額程度と記載されているので、この金額の大きさがあまりにもおかしいという観点が大きく否認に影響していると思われます。

適正な金額であれば物件情報を得るための接待などは経費計上できます。しかしながら電子機器代、スーツ代等は判断が難しいので事前に税理士に相談する事をお勧めします。

そして金額に十分注意してください。接待費などが大きすぎると何のために不動産賃貸業をやっているのかという疑義が生じます。

参考:ゴルフ接待についての裁決

平22.4.22、裁決事例集No.79より

主張:不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した本件ゴルフ代の支出に関し、賃貸物件の補修の必要性や家主である請求人に対するクレーム等を把握し、これらに対応することで、賃貸物件を優良なテナントに長く貸し付けることができるよう、テナントの代表者等に対するゴルフ接待を行うとともに、種々の情報を得て不動産の購入を容易にし、また、購入資金の融資の点でも有利になるよう、かつての勤務先である銀行の後輩等に対するゴルフ接待を行っていた。

裁決:本件ゴルフ代についてみると、接待の相手方であると主張する者のうち、①請求人の主宰法人が所有する不動産のテナントについては、請求人の不動産所得に係る業務の遂行とは直接関係がなく、②請求人が所有する不動産のテナントの関係者についても、請求人が賃貸物件の補修の必要性や家主である請求人に対するクレーム等を把握するために、これらの者とゴルフをする必要があったとは認め難く、③かつての勤務先である銀行の後輩については、間接的に、請求人の不動産貸付業に有益な情報が得られる場合があるとしても、これらの者とゴルフをすることが、業務の遂行上直接必要であったとまではいい難く、さらに、④請求人はゴルフクラブの会員として、本件各年分を通じて、毎年相当の回数のプレーをしており、その大半を女子プロゴルファーと2人でプレーしている上、請求人が接待交際費に該当すると主張する上記各相手先とのゴルフについても、いずれも上記女子プロゴルファーを同伴させていることからすれば、本件ゴルフ代は、結局のところ、請求人の趣味・し好としてのゴルフプレーのために支出された家事上の経費であると評価せざるを得ず、家事費に該当するから、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないというべきである

不動産賃貸業に関わる適正な金銭は経費計上できる。

今まで否認の理由を見てきましたが、経費がどこまで認めらるかについては冒頭述べた不動産所得を生ずべき業務の遂行上必要であるについて、適正な金額であり、客観的に内容(どの様に不動産賃貸業につながるのか)を具体的に説明出来ればよいという事になります。

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